テラヘルツ技術総覧 テラヘルツテクノロジーフォーラム編
安全性や電波、可視光、X線にない特性、有用性を認識
テラヘルツは光と電波が交わる多種多様な技術・学問分野
情報通信・電気電子・宇宙環境・医薬医療・ナノテクノロジー・材料

テラヘルツ波は、デバイス技術、システム技術が成熟した電波と可視光の間にあるにも関わらず、これらの技術が未だ十分に発展しきれていない電磁波の領域です。よく知られているように、テラヘルツ波の難しさは、物理的な理由に起源があるため、その克服は容易ではありません。即ち、電波の側から、発振器や受信器等をマイクロ波・ミリ波より更に高周波化しようとすると、固体デバイス中の電子速度の限界が発振器の出力や検出器の変換効率などを著しく低下させてしまいます。また、光の側から、赤外線よりも低周波化しようとすると、半導体レーザや半導体検出器のテラヘルツ波に関わるエネルギー間隔が、室温に相当するエネルギーよりも小さくなり、電子の熱励起がレーザ発振や光子検出を困難にしてしまいます。


電波領域や光・赤外領域に比べ、光源や検出器など基本的な要素技術の性能が低く、利用が容易でないことを指して、テラヘルツギャップという言葉が用いられています。また,テラヘルツ帯においては、電波や光領域とは大きく異なる、材料やデバイス、システム構築が必要となり、経験のある研究者、技術者にとっても、それらについての知識を十分に網羅し、活用することは、それほど容易ではありませんでした。


テラヘルツテクノロジー技術総覧は、既にテラヘルツテクノロジーに関わっておられる研究者や技術者、またこれからこの分野に参入しようとされる方々にとって、テラヘルツギャップを乗り越え、テラヘルツテクノロジーを活用する一助とするために、作製されました。
現在のテラヘルツテクノロジーは、主に遠赤外線、サブミリ波と呼ばれ、固体や分子の科学、核融合プラズマ診断や天体観測に利用されてきたさまざまな技術の蓄積の上に、1990年代以降の超短パルスレーザによるテラヘルツ波発生・検出技術の発展、2002年に実現されたテラヘルツ量子カスケードレーザなど、テラヘルツという呼称が一般的に使われるもとになった、量子光エレクトロニクスの新しい技術が加わって構成されています。


1990年代以降のテラヘルツテクノロジーのブレークスルーを契機として、現在、危険物や違法薬物検査、半導体ウェハーやLSI、食品、薬品などの非破壊検査、医療診断、災害現場のモニター、環境計測、超高速無線通信など、さまざまな応用が研究されています。今後これらのテラヘルツの応用が着実に発展するためには、さまざまな分野の研究者や技術者が、テラヘルツテクノロジーについて容易に十分な知識を得て、それぞれの分野に活用できるようになることが重要です。


本書は、産学官の連携を進めているテラヘルツテクノロジーフォーラムが中心となって編集を行い、長い歴史を持つ遠赤外線・サブミリ波の技術から、近年の新しいテラヘルツ技術を含め、現在利用でき、かつ利用する価値のある、基礎知識、デバイス・要素技術、システム、科学と産業応用、基礎データを網羅して解説します。本書が、テラヘルツテクノロジーに関心を持っておられる全ての方に活用され、役立つことを期待しています。

テラヘルツテクノロジーフォーラム編
「テラヘルツ技術総覧」編集委員長
静岡大学  教授 廣本 宣久

編集委員会
編集委員長 廣本 宣久 静岡大学 創造科学技術大学院 教授
副委員長 田中 耕一郎 京都大学大学院 理学研究科 教授
  斗内 政吉 大阪大学 レーザーエネルギー学研究センター 教授
編集委員 浅田 雅洋 東京工業大学大学院 総合理工学研究科 教授
  大谷 知行 (独)理化学研究所 テラヘルツイメージング研究チーム チームリーダー
  尾辻 泰一 東北大学 電気通信研究所 教授
  角屋 豊 広島大学大学院 先端物質科学研究科 教授
  川瀬 晃道 名古屋大学 エコトピア科学研究所 教授
  高橋 宏典 浜松ホトニクス(株) 中央研究所第11研究室 主任研究員
  平川 一彦 東京大学 生産技術研究所 教授
  寳迫 巌 (独)情報通信研究機構 新世代ネットワーク研究センター 研究マネージャー
  南出 泰亜 (独)理化学研究所 テラヘルツ光源研究チーム 研究員
執筆者   産・官・学 総勢90余名
 
MAIN CONTENTS
 
刊行にあたって   廣本 宣久
         
第1章 テラヘルツ研究の歴史
    遠赤外光からテラヘルツ波へ   阪井 清美
綱脇 惠章
         
第2章 テラヘルツ波の基礎
2.1   電磁波としてのテラヘルツ波   田中 耕一郎
2.2   テラヘルツ波と物質との相互作用    
 2.2.1   光遷移のモデル   田中 耕一郎
 2.2.2   光学スペクトル   芦田 昌明
 2.2.3   テラヘルツ領域に現れる物質の応答   芦田 昌明
2.3   テラヘルツ波の発生
(プランク放射、電子運動による電磁波放射、レーザー、非線形光学効果による発生)
  四方 潤一
2.4   テラヘルツ波の検出    
 2.4.1   光子検出,熱的検出および電波検出   廣本 宣久
 2.4.2   テラヘルツ検出器の雑音   廣本 宣久
 2.4.3   テラヘルツ波の検出限界   廣本 宣久
2.5   テラヘルツ波の伝送    
 2.5.1   アンテナ   角屋 豊
 2.5.2   テラヘルツ伝送路   北川 二郎
 2.5.3   準光学系   北川 二郎
 2.5.4   大気伝搬   落合 啓
         
第3章 テラヘルツ光源
3.1   超短パルステラヘルツ光源    
 3.1.1   光伝導アンテナ   阪井 清美
谷 正彦
 3.1.2   半導体表面からのテラヘルツ波発生   斗内 政吉
鈴木 正人
 3.1.3   非線形光学結晶によるテラヘルツ発生    
  3.1.3.1   無機非線形結晶   永井 正也
  3.1.3.2   有機非線形結晶    
    (1) 有機非線形結晶 DAST   吉村 政志
森 勇介
佐々木 孝友
    (2) 有機非線形結晶 BNA   高橋 宏典
橋本 秀樹
 3.1.4   フェムト秒レーザー    
  3.1.4.1   Tiサファイアレーザー   高田 英行
  3.1.4.2   Nd:glass 1μmレーザー   河仲 準二
  3.1.4.3   ファイバーレーザー   大竹 秀幸
  3.1.4.4   1μm超短パルスファイバーレーザー   住村 和彦
中塚 正大
3.2   非線形光学    
 3.2.1   パラメトリック発生・発振   川瀬 晃道
 3.2.2   差周波発生   南出 泰亜
3.3   超高速オプトエレクトロニクス素子    
 3.3.1   OE変換光伝導素子    
  3.3.1.1   光伝導素子   松浦 周二
  3.3.1.2   フォトダイオード   伊藤 弘
 3.3.2   フォトミキシング    
  3.3.2.1   光伝導素子によるテラヘルツ波発生   松浦 周二
  3.3.2.2   UTC-PDによるテラヘルツ波発生   伊藤 弘
3.4   テラヘルツレーザー    
 3.4.1   量子カスケードレーザー   関根 徳彦
 3.4.2   p型Geレーザー   寶迫 巌
3.5   固体電子素子    
 3.5.1   ガンダイオード・インパット・タンネット   浅田 雅洋
 3.5.2   RTD発振器   浅田 雅洋
 3.5.3   逓倍器   鈴木 哲
3.6   電子管    
 3.6.1   BWO(後進波管)   三村 秀典
 3.6.2   スミス・パーセル放射光源   根尾 陽一郎
 3.6.3   ジャイロトロン   出原 敏孝
3.7   高エネルギー電子    
 3.7.1   シンクロトロン放射   清 紀弘
 3.7.2   コヒーレント放射   清 紀弘
 3.7.3   自由電子レーザー   滝川 誠
3.8   熱光源    
 3.8.1   黒体光源、グローバー光源   石井 順太郎
 3.8.2   超高圧水銀灯   武田 三男
         
第4章 テラヘルツ検出器
4.1   時間領域テラヘルツ検出    
 4.1.1   光伝導アンテナ   芦田 昌明
 4.1.2   EO結晶,MO結晶   萩行 正憲
谷 正彦
 4.1.3   自己相関分光法   平川 一彦
4.2   ショットキーバリアダイオード   安井 孝成
4.3   半導体量子型検出器    
 4.3.1   不純物半導体光伝導型検出器   土井 靖生
 4.3.2   量子井戸検出器   西野 弘師
4.4   熱的検出器    
 4.4.1   ゴーレイセル・焦電型検出器   小田 直樹
 4.4.2   冷却半導体ボロメータ   土井 靖生
 4.4.3   アンテナ結合マイクロボロメータ   安岡 義純
4.5   超伝導検出器    
 4.5.1   SISミキサー   王 鎮
 4.5.2   HEBミキサー   王 鎮
 4.5.3   STJ検出器、TES検出器   有吉 誠一郎
         
第5章 テラヘルツ光学素子
5.1   ウィンドウ   碇 智文
5.2   フィルター    
 5.2.1   レストシュトラーレンフィルター   阪井 清美
 5.2.2   結晶粉末フィルター   阪井 清美
 5.2.3   メタルメッシュフィルター・干渉フィルター   阪井 清美
 5.2.4   誘電体多層膜フィルタ   松本 直樹
5.3   レンズ・ミラー    
 5.3.1   レンズ   南出 泰亜
 5.3.2   ミラー   南出 泰亜
5.4   ビームスプリッタ    
 5.4.1   ビームスプリッタ   藤井 高志
武田 三男
 5.4.2   ダイクロイックビームスプリッタ   藤井 高志
 5.4.3   ワイヤーグリッド偏光子   藤井 高志
武田 三男
5.5   グレーティング   芝井 広
5.6   テラヘルツ波ファイバー   松浦 祐司
         
第6章 テラヘルツ電子デバイス・集積回路
6.1   トランジスタ    
 6.1.1   HEMT   末光 哲也
 6.1.2   HBT   宮本 恭幸
6.2   半導体集積回路    
 6.2.1   半導体高周波アナログ集積回路   小杉 敏彦
 6.2.2   半導体超高速ディジタル集積回路   村田 浩一
6.3   超伝導集積回路    
 6.3.1   単一磁束量子回路   藤巻 朗
 6.3.2   単一磁束量子大規模集積回路   藤巻 朗
         
第7章 テラヘルツ計測システム
7.1   測定器    
 7.1.1   周波数・波長測定   安井 武史
 7.1.2   光オシロスコープ   岩岡 秀人
7.2   分光器    
 7.2.1   波長掃引型テラヘルツ分光装置   碇 智文
 7.2.2   FT-IR(フーリエ変換分光器)   大谷 知行
 7.2.3   テラヘルツ時間領域分光法(THz-TDS)   萩行 正憲
谷 正彦
山口 真理子
山本 晃司
長島 健
松浦 周二
 7.2.4   時間領域全反射分光法(TD-ATR)   田中 耕一郎
 7.2.5   テラヘルツポンププローブ分光   永井 正也
7.3   イメージングシステム    
 7.3.1   走査型テラヘルツイメージング   大谷 知行
 7.3.2   分光イメージング   大谷 知行
 7.3.3   光ファイバ結合型時間分解分光イメージング   斗内 政吉
井上 亮太郎
 7.3.4   CCDカメラを用いたテラヘルツイメージング   深澤 亮一
 7.3.5   THz-QCL-二次元アレイ検出器   Qing Hu
 7.3.6   レーザーテラヘルツ放射顕微鏡(LTEM)   斗内 政吉
村上 博成
Sunmi Kim
 7.3.7   コンピュータトモグラフィ   安井 武史
7.4   新しい計測技術    
 7.4.1   近接場分光・イメージング   林 伸一郎
 7.4.2   偏光センシング   萩行 正憲
谷 正彦
長島 健
 7.4.3   単一光子検出イメージング   生嶋 健司
         
第8章 テラヘルツの科学
8.1   半導体    
 8.1.1   自由電子とテラヘルツ波の相互作用   平川 一彦
 8.1.2   磁気光学効果   島野 亮
 8.1.3   自由キャリアの超高速過渡応答   Alfred Leitenstorfer
 8.1.4   半導体量子構造    
  8.1.4.1   半導体超格子とブロッホ振動   平川 一彦
  8.1.4.2   サブバンド間遷移   鵜沼 毅也
 8.1.5   プラズモン共鳴   尾辻 泰一
8.2   機能性材料    
 8.2.1   誘電体   武田 三男
 8.2.2   超伝導/強相関電子系   斗内 政吉
村上 博成
貴田 徳明
高橋 宏平
 8.2.3   表面モード   永井 正也
 8.2.4   金属細線導送路   Daniel M.Mittleman
 8.2.5   フォトニック結晶・メタマテリアル   宮丸 文章
8.3   気体   松島 房和
8.4   液体    
 8.4.1   水と水溶液   田中 耕一郎
 8.4.2   有機液体   山本 晃司
 8.4.3   イオン液体・溶液中の分子集合体   山本 晃司
8.5   単分子結晶・ナノマテリアル    
 8.5.1   単分子結晶   永井 直人
 8.5.2   ナノマテリアル   A. Schmuttenmaer
8.6   地球環境    
 8.6.1   大気観測   落合 啓
 8.6.2   地球の熱収支   笠井 康子
8.7   天文学    
 8.7.1   スペース赤外線天文学   中川 貴雄
 8.7.2   サブミリ波天文学   川邊 良平
 8.7.3   宇宙背景放射   服部 誠
大田 泉
茅根 裕司
         
第9章 テラヘルツの利用
9.1   情報通信    
 9.1.1   テラへルツキャリア通信   永妻 忠夫
 9.1.2   テラヘルツサブキャリア・光通信への応用   尾辻 泰一
川西 哲也
 9.1.3   テラビット級超大容量通信システム   増田 浩次
 9.1.4   テラビット級超高速信号処理   和田 修
9.2   安全・安心    
 9.2.1   テラヘルツイメージングの安全・安心応用   大谷 知行
 9.2.2   テラヘルツ分光の安全・安心応用   保科 宏道
 9.2.3   郵便物非開披検査装置   佐々木 芳彰
9.3   バイオセンシング    
 9.3.1   バイオセンサ   田畑 仁
 9.3.2   バイオチップ   北川 二郎
9.4   医療・薬品応用    
 9.4.1   医療・薬学応用   大谷 知行
 9.4.2   医薬品の結晶多形   熊沢 亮一
9.5   工業応用    
 9.5.1   半導体ウェハー検査   深澤 亮一
 9.5.2   ポリマーナノコンポジット   永井 直人
 9.5.3   包装シール検査   川瀬 晃道
 9.5.4   LSI故障解析装置   山下 将嗣
9.6   農業応用    
 9.6.1   水管理   小川 雄一
 9.6.2   農薬   小川 雄一
         
附 資料編
    テラヘルツ用語   齋藤 伸吾
    テラヘルツ材料データ   福永 香
         
索引        
         
編集後記       廣本 宣久